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最高裁判所第一小法廷 昭和35年(オ)381号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士三原道也の上告理由第一点について。

原判決の引用にかかる第一審判決が判示捲上機(従つて、その一部であるワイヤロープも)を以て民法七一七条に言う土地の工作物に該当するものと解した同判決の判断は、当裁判所もこれを正当として支持する。所論は右に反する独自の見解であつて、採るを得ない。

同第二点について。

所論は、ひつきようするに本件ワイヤロープの設置又は保存には何らの瑕疵がなかつたという主張に帰する。しかし、原判決並びにその引用にかかる第一審判決の認定した事実によれば、本件ワイヤロープは捲上機の捲き上げる力に耐え得なかつたと言うのであるから、本件捲上機にはその設置又は保存について瑕疵があつたものと認めるを相当とする。同趣旨に出た原判決並びに第一審判決の判断は正当であり、所論はこれに反する独自の見方であつて、採るを得ない。

同第三点並びに上告代理人弁護士石田市郎の上告理由第一点について。

所論は、本件事故の発生は偏に被害者荒瀬昇の注意の欠如に因るものであるという主張に帰する。しかし、原判決の引用にかかる第一審判決によれば、判示の各諸点より観察するも、右荒瀬昇の注意の欠如によつて本件事故が発生したものとは認められないというのであつて、その挙示の証拠関係に徴すれば、そのような判断は可能でないことはなく、その判断の過程に所論の違法あるを認め難い。所論は、ひつきようするに右判断の前提となつた事実に抵触する事実を主張して原審並びに第一審がその裁量の範囲内で適法になした事実認定を非難攻撃するに帰するものであつて、採るを得ない。なお附言するが、土地の工作物の設置又は保存の瑕疵に因つて発生した損害については、工作物の所有者は自己の無過失の故を以てその賠償の責を免れ得ない筋合のものである。従つて、上告人自己に過失の責任なしとする趣旨の所論は採用に値しない。

右上告代理人三原道也の上告理由第四点並びに同代理人石田市郎の上告理由第二点について。

原判決の引用する第一審判決によれば、本件事故による被害者荒瀬昇の死亡に因り物質的の損害賠償としてその妻たる被上告人荒瀬キミヱは金二一万三七一四円の、被上告人敏実、同秀子、同京子は昇の子として各金一四万二四七六円の各請求権を取得したものとされ、その外に慰藉料として被上告人キミヱは金一〇万円、被上告人ワサノは金三万円、被上告人敏実、同秀子、同京子は各金五万円の請求権を取得したものとされたこと、一方被上告人キミヱは昇の本件事故に因る死亡を理由として労働者災害補償保険法に基づき遺族補償費として金三六万八八四〇円、葬祭料として金二万二一三〇円の各交付を受けたことは所論のとおりである。そして、右のような場合労働基準法八四条二項及び労働者災害補償保険法一二条一項四号、一五条、労働基準法施行細則四二条の法意に基づき被上告人キミヱの受けたる右遺族補償費三六万八八四〇円はキミヱの取得するものとされた前示物質的の損害賠償請求権二一万三七一四円にのみ充てらるべき筋合のものであつて、同人の前示慰藉料請求権にも、亦その他の被上告人の損害賠償(有形無形とも)請求権にも及ばないものであり、前示葬祭料に至つては勿論その対象とならないものと解するを相当とする。従つて叙上と同趣旨に出た原判決並びに第一審判決の判断は正当であつて、その間に法律の解釈及び適用を誤つた瑕瑾ありと言うを得ない。所論は右に反する独自の見解であつて、採用できない。

よつて、民訴三九六条、三八四条一項、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)

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